吉方位ナビは行き先までの距離を表示しますが、それが何を意味するかは書いていませんでした。流派は「100km以上」と言います。効果があるかどうかは測れません。測れるのは、方位の計算が何キロから信用できるかだけです。数えたところ、距離で直る問題と、距離では直らない問題があることが分かりました。
まず、世の中で言われている数字を確かめました。
吉方位旅行が有効な距離は、「100〜200km以上離れた土地」であるといわれています。
(理由として)家の位置と近すぎると日常と変わりがないため、祐気取りの効果が出にくい
zired「祐気取り(吉方位旅行)のやり方・効果【完全ガイド】」
100km以上の距離を移動することで、強力な吉方位のエネルギーを取り込むことができる
「移動距離(キロ)× 宿泊日数」が一万を超える場合、11年半の効果が続く
hayaraku「吉方旅行=方位取り=祐気取りのもつ、効果や持続時間を解説」
同じページに「50〜60km程度でも可」「日常範囲が広い人は500km必要」という別説も並記されています。数字は50kmから500kmまで10倍の幅があり、どれも導出が示されていません。共通しているのは「日常生活圏の外に出る」という考え方だけです。
方位を計算するには出発地の座標が要ります。ところが「自分の家」の座標は、どの精度で分かっているでしょうか。
出発地が r だけずれると、距離 D にある行き先の方位角は最大で arctan(r ÷ D) だけ動きます。近いほど大きく、遠いほど小さくなります。
方位角のぶれ = arctan( 出発地のずれ ÷ 行き先までの距離 )
例)出発地が1kmずれたとき
行き先が 5km先 → 11.3° ぶれる
行き先が 50km先 → 1.1° ぶれる
行き先が 500km先 → 0.1° ぶれる
では「どこまで小さければ十分か」。八方位の帯は45度、中心から端まで22.5度です。ぶれがこの半分の幅を超えると理屈のうえでは方位が変わりえます。帯の4分の1(11.25度)や10分の1(2.25度)を基準にすると、必要な距離は次のようになります。
| 出発地の決め方 | 位置の誤差 | ぶれ < 22.5° | ぶれ < 11.25° | ぶれ < 2.25° |
|---|---|---|---|---|
| 座標を入力する | 20 m | 0.05 km 〜 | 0.1 km 〜 | 0.5 km 〜 |
| 自宅の町内まで分かる | 1 km | 2.4 km 〜 | 5.0 km 〜 | 25.5 km 〜 |
| 市役所を基準にする | 5 km | 12.1 km 〜 | 25.1 km 〜 | 127.3 km 〜 |
| 県庁所在地を基準にする | 20 km | 48.3 km 〜 | 100.5 km 〜 | 509.0 km 〜 |
吉方位ナビが持っている全国79件の神社・霊場・温泉について、東京都庁を出発地として方位角を計算し、そこから出発地をあらゆる方向に少しずつ動かして、八方位が変わる件数を数えました。
| 出発地のずれ | 八方位が変わりうる行き先 | 割合 |
|---|---|---|
| 0.5 km | 2 / 79 | 2.5% |
| 1 km | 2 / 79 | 2.5% |
| 2 km | 2 / 79 | 2.5% |
| 5 km | 8 / 79 | 10.1% |
| 10 km | 11 / 79 | 13.9% |
| 20 km | 17 / 79 | 21.5% |
ここで面白いのは1kmで変わる2件の中身です。明治神宮(1.6km)と高野山 金剛峯寺(409km)。理由は正反対です。明治神宮は近すぎて方位が定まらない。高野山は遠いのに、八方位の境界にほとんど乗っているから動く。
距離帯ごとに分けると、距離が効いている範囲がはっきりします。
| 距離帯 | 件数 | 5kmのずれで方位が変わる | 割合 |
|---|---|---|---|
| 〜50 km | 4 | 3 | 75.0% |
| 50〜100 km | 9 | 2 | 22.2% |
| 100〜200 km | 9 | 0 | 0.0% |
| 200〜500 km | 32 | 3 | 9.4% |
| 500 km〜 | 25 | 0 | 0.0% |
50kmまでは4件中3件が不安定、100〜200kmでゼロになります。ここまでは距離の話が成り立っています。ところが200〜500kmでまた3件出てきます。距離をいくら伸ばしても消えない別の原因がある、ということです。
東京都庁から高野山 金剛峯寺への方位角を計算すると 247.5017度 になります。西と南西の境界は 247.5度 ちょうどです。差は 0.0017度。409km先での横ずれに直すと 12メートルしかありません。
ではこの行き先は西なのか南西なのか。東京23区の区役所を出発地にして、それぞれ計算してみました。
さらに正直に言うと、この計算では高野山がどちら側かを決められません。当サイトが持っている金剛峯寺の座標は小数第4位までで、丸めの幅は緯度にして約5.6m。それが409km先の方位角に与える影響は約0.0008度です。境界までの余裕0.0017度と同じ桁なので、座標をもう一桁細かくしたら答えが裏返る可能性があります。
そして「境界にどれだけ近いか」は、距離とまったく関係がありません。79件の境界までの余裕を数えると、ほぼ一様分布でした。
| 境界までの余裕 | 件数 | 実測 | 一様分布なら |
|---|---|---|---|
| 1° 以内 | 3 / 79 | 3.8% | 4.4% |
| 2° 以内 | 7 / 79 | 8.9% | 8.9% |
| 3° 以内 | 9 / 79 | 11.4% | 13.3% |
| 5° 以内 | 18 / 79 | 22.8% | 22.2% |
中央値は9.6度(一様分布なら11.25度)。行き先が境界の近くに来るかどうかは運です。そして運が悪ければ、1000km離れていても方位は確定しません。
方位が定まらない原因は2つあり、性質がまったく違います。
| 原因 | 中身 | 距離を伸ばすと | 対処 |
|---|---|---|---|
| 出発地の不確かさ | 自分がどこにいるか正確に分からない | 消える | 遠くへ行く/座標を入れる |
| 境界の近さ | 行き先が八方位の境目に乗っている | 消えない | その行き先を選ばない |
「100km以上」という言い伝えは、前者に対する答えとしてはよくできています。県庁所在地しか分からない人が帯の4分の1の精度を得る距離が100.5km。数字としては筋が通っています。
ただし後者にはまったく効きません。高野山は409km先ですが、東京のどこに住んでいるかで西と南西に割れます。「100km以上だから安心」は半分しか正しくありません。
効果の話は、これらとは別の次元にあります。この記事で言えるのは「計算がどこから信用できるか」までです。100kmという数字に幾何学的な裏づけが見つかったからといって、100km行けば運が良くなることの証明にはなりません。
自宅の座標をきちんと入れる場合、必要な距離はぐっと短くなります。
誤差20m(座標を入力)のとき
0.5km 先で、ぶれは帯の10分の1(2.25°)以内
5km 先で、ぶれは 0.23°
50km 先で、ぶれは 0.02°
誤差5km(市役所を基準)のとき
12.1km 先で、ようやく帯の端に届かなくなる
127km 先で、帯の10分の1
つまり「100km以上」が必要なのは、自分の位置を大ざっぱにしか決めていない場合の話です。座標を入れるなら、近場でも方位角そのものは十分に安定します。あとは境界に乗っていないかだけを見ればよい ── これが、この記事で分かったことです。
読みもの 002 ── なぜ方位は八つなのか そもそも八方位の境界をどこに引くかにも45度説と30/60説があり、全周の6分の1で判定が食い違います。境界の話はこちらに。 読む →