「東を向いている」と「日の出を向いている」は別のことです。日の出の方位は季節で58度も動きます。そして「御来光の道」と呼ばれる有名なレイラインを、実際に計算して確かめました。
「日は東から昇り西に沈む」。だいたいは合っていますが、真東から昇る日は1年に2日しかありません。春分と秋分です。しかもその2日ですら、厳密には真東ではありません。
東京(北緯35.7度)で計算するとこうなります。
| 時期 | 太陽の赤緯 | 日の出の方位 | 真東からのずれ |
|---|---|---|---|
| 夏至 | +23.4° | 60.0° | 30.0° 北寄り |
| 春分・秋分 | 0° | 89.4° | 0.6° 北寄り |
| 冬至 | −23.4° | 118.6° | 28.6° 南寄り |
夏至と冬至で58.6度も違います。八方位ひとつぶんが45度ですから、夏至の日の出は「北東」、冬至の日の出は「南東」に入ります。「東向き」と一口に言っても、どの日の東かで方位がまるごと変わるわけです。
そして春分・秋分でも0.6度だけ北寄りになります。理由は二つ。大気による屈折で太陽は実際より少し持ち上がって見えること、そして日の出は太陽の上端が地平線に触れた瞬間で、中心はまだ地平線の下にあること。この記事では両方を織り込んだ地平高度 −0.833度で計算しています。
上のグラフでいちばん大事なのは、形が正弦波で、両端が平らになっていることです。これは実務的に大きな意味があります。
日の出方位が1日で動く量(東京)
春分のころ … 1日あたり 約29分角(0.49度)
夏至のころ … 1日あたり 約2.5分角(0.04度)
至点では、分点の12分の1しか動きません。
つまり夏至や冬至の日の出方向は「止まって見える」。前後10日ずれても方位はほとんど変わりません。いっぽう春分の日の出は、1日違えば0.5度ずれます。
石や柱で方向を刻もうとしたとき、狙いやすいのは圧倒的に至点のほうです。世界中の古代の建造物が夏至や冬至の日の出を軸に据えているのは、信仰の話である前にそこだけが動かないからでもあります。
日の出方位の振れ幅は、場所によっても変わります。
| 地点 | 夏至 | 春分・秋分 | 冬至 | 振れ幅 |
|---|---|---|---|---|
| 那覇(26.2°N) | 63.2° | 89.6° | 115.9° | 52.6° |
| 京都(35.0°N) | 60.3° | 89.4° | 118.4° | 58.1° |
| 東京(35.7°N) | 60.0° | 89.4° | 118.6° | 58.7° |
| 仙台(38.3°N) | 58.8° | 89.3° | 119.7° | 60.9° |
| 札幌(43.1°N) | 56.1° | 89.2° | 122.1° | 66.0° |
| 稚内(45.4°N) | 54.5° | 89.2° | 123.5° | 69.0° |
北へ行くほど振れ幅が大きくなります。那覇と稚内では16度も違う。同じ「夏至の日の出に向けた社殿」でも、沖縄と北海道では8度以上向きが変わります。方位を天体に合わせるということは、その土地の緯度に合わせるということでもあります。
ここからは計算ではなく、伝えられている理由の話です。
一般には南向きか東向きが標準とされます。南向きの根拠としてよく挙げられるのが「天子南面す」という中国由来の考え方で、位の高い者は南を向いて座る、という思想です。東向きは日の出の方向として神聖視されたという説明がされます。
ただし、例外は珍しくありません。
つまり「神社は南か東を向く」は傾向であって規則ではありません。地形、参道の取り方、由緒、後世の改築——理由は一つではない。方位だけを見て意味を読み取ろうとすると、たいてい行きすぎになります。
そのうえで、方位に本当に意味がある例なら計算で検証できます。次がそれです。
日本でいちばん有名なレイラインがあります。千葉の玉前神社を起点に、寒川神社・富士山頂・七面山・竹生島・元伊勢皇大神社・大山(大神山神社)・出雲大社が一直線に並ぶ、というものです。玉前神社自身が公式に紹介しており、春分・秋分の日に太陽が真東から昇り真西に沈むことと結び付けて「御来光の道」と呼ばれています。
これは完全に計算で確かめられる主張です。やってみました。
| 地点 | 北緯 | 玉前神社から | その方位 |
|---|---|---|---|
| 玉前神社 | 35.3706 | — | — |
| 寒川神社 | 35.3775 | 91 km | 270.77° |
| 富士山 剣ヶ峰 | 35.3606 | 150 km | 270.06° |
| 七面山 | 35.3789 | 185 km | 270.88° |
| 竹生島 | 35.4200 | 385 km | 272.05° |
| 元伊勢 皇大神社 | 35.4700 | 474 km | 272.85° |
| 大神山神社 奥宮 | 35.3908 | 620 km | 272.19° |
| 出雲大社 | 35.4022 | 698 km | 272.52° |
8地点の緯度は 35.3606 〜 35.4700 の範囲に収まります。幅は0.109度=約12km。
東西の全長698kmに対して、南北のばらつきは1.7%。とくに富士山剣ヶ峰は玉前神社の真西から0.06度しかずれていません。
「並んでいる」という主張そのものは、数字で見ても正しい。これは率直に驚きました。否定するつもりで計算を始めたわけではありませんが、ここまで揃っているとは思っていませんでした。
ここからが本題です。地球は球なので、「同じ緯度に並ぶ」と「まっすぐ並ぶ」は別のことになります。
緯線(等緯度線)は、赤道以外では大円ではありません。真西を向いてまっすぐ歩き続けると、緯線から外れて南へ逸れていきます。計算するとこうです。
| 玉前神社から真西へ進んだ距離 | 到達点の緯度 | 出発点との南北差 |
|---|---|---|
| 100 km | 35.3656 | 0.6 km 南 |
| 200 km | 35.3506 | 2.2 km 南 |
| 400 km | 35.2905 | 8.9 km 南 |
| 600 km | 35.1906 | 20.0 km 南 |
| 800 km | 35.0510 | 35.6 km 南 |
光はこの大円に沿って進みます。だから、春分の朝に出雲大社で日の出の方向を見ても、その線の先に玉前神社はありません。
出雲大社での春分の日の出方位は 89.41°。
出雲大社から見た玉前神社の方位は 88.06°。
差は1.35度。日の出方位へ698km(玉前神社と同じ距離)進むと、玉前神社から約16km南に外れた地点に着きます。
整理するとこうなります。
つまりこの列は、「日の出の線」ではなく「同じ緯度の線」として非常によく揃っているということです。どちらも「東西のライン」と呼ばれますが、球面の上では別物で、その差が16kmなのです。
これは主張を否定する結果ではありません。むしろ「緯度が揃っている」という事実のほうが、より強く、より明確です。ただ、それを「春分の日の出の道」と言い換えると、700kmで16km分だけ話がずれる。測ればどちらなのかは決められる、というのがこの記事の結論です。
日の出方位 cos A =(sin δ − sin h0・sin φ)/(cos h0・cos φ) h0 = −0.833°(大気差 約34分角 + 太陽の視半径 約16分角) 太陽の赤緯 太陽黄経を Meeus の方法で求め、黄道傾斜角から換算 方位と距離 真北基準の大円(球面三角法)。地球半径 6371.0088 km 座標 各地点は地図上の代表点。1km程度の誤差を含みます
座標を記事中に出しているのは、読んだ方が自分で計算し直せるようにするためです。数字が合わない場合はお問い合わせからご指摘ください。
なお、地球を回転楕円体として扱うと数値は少し変わります(測地線と大円のずれ)。ここでは球として計算しており、この記事の結論を左右する規模ではありません。